本日は、『ディテールは、ただの選択肢にあらず。』なお話です。
ジャケットの右腰ポケットの上にある、少し小さなポケット。これ、チェンジポケットって、いいます。
『何のため?なぜ右だけ?左には付かないの?フラップはつけなきゃダメ?』接客中、ジャケットのディテールのお話をさせていただく際に、お客様からこういった質問があったりします。起源は諸説あるようですが、個人的には、この説が好きです。
現代のスーツのジャケットの原型と言えるものは、実は軍服なんです。サヴィルローでは、ギーヴス・アンド・ホークスが大変有名です。昨年のヘンリー王子とメーガン・マークルのロイヤルウエディングでは、ヘンリー王子が近衛騎兵隊ブルーズ・アンド・ロイヤルズのミッドナイトブルーの軍服を着用したことは、記憶に新しいと思います。
その昔、イギリスでは、公式な場面で通用する男性の洋服は、軍服だけでした。全くの左右対称で、装飾性の高い軍服は、財力・権力・武力の象徴でした。時代の流れとともに、詰め襟から、テーラードカラーと呼ばれる、現代のスーツにみられるジャケットの襟に変化しますが、腰のポケットは、左右対称のままでした。ですが、ここで、チェンジポケットが誕生します。
それは、この時代を生き抜いた貴族たちの高い美意識が起因しています。軍服の左右対称なディテールは、綺麗で凛とした緊張感があります。しかし、それだけでは味気ない。だから、右腰にチェンジポケット付け、左胸には箱ポケットを配し、チーフを入れたのでした。凛とした緊張感の中に、優雅で柔らかいアクセントをプラスさせることで何とも言えない良い雰囲気を演出したのです。
彼らは、文字通り死ぬ気でおしゃれをしていたに違いありません。(因みに、1930年代のUSEDのスーツを何着も目にしたことがありますが、チェンジポケットは一つも付いていませんでした。)
時代や文化を超えて、生きながらえたディテールというものは、普遍的にいいものと言えるでしょう。100年後も伝統的なディテールとして存在しているはずです。
まだチェンジポケットを試されていない方、是非次の機会に考えてみてはいかがでしょうか?ご相談、お待ちしております。
以上、『ディテールは、ただの選択肢にあらず。』なお話でした。
吉澤
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