1962年の第一作が公開されてから、最新作まで24作となり長く世界中のファンから愛されている『007』シリーズ。皆さんもご存知かと思います。
因みに、私の中では、『007』のジェームズ・ボンドは、ショーン・コネリー以外、存在しないと言っても過言ではありません。彼こそがボンドであり、テーラードウェアの本質に迫ったスタイルは、時代を超えても尚、その輝きは色褪せません。ボンドスーツといえば、彼のスタイルそのものなのです。
60年代初頭、伝統的なサヴィルローのスタイルにイタリア的な垢抜けたエッセンスを取り入れたスーツが流行しました。これをコンチネンタルスタイルといいます。サヴィルローから少し離れたコンジット通りには、コンチネンタルスタイルの拠点となるテーラーが軒を連ねていました。
ボンドスーツもこのコンジット通りで誕生します。そのテーラーは、アンソニーシンクレア。映画第1作『007 ドクター・ノオ』を監督したテレンス・ヤングが顧客であったことから、コネリーはヤングに連れられ、アンソニーシンクレアでスーツを誂えたのでした。
イギリス(島国)でもなければ、イタリア(大陸)でもない。あえて特長をあげるならば、1950年代末期より散見されたミニマルなフォルム。広めの肩幅や厚い胸から、ウエストへのシェイプ。前身頃には、胸を厚く見せるための裾まで伸びたダーツ。細い衿幅や都会的に見える先細りのシルエットが特徴的です。特記すべきは、アンソニーシンクレアのフィッティング。エレガントに見えるゆとりの取り方やカチッとし過ぎない絶妙なソフト感。まだご覧になっていない方は必見です。
私が最も好きなボンドの仕草は、動きの中で細い袖裾から出たミラノカフスを袖口に納める自然な仕草です。セクシーでワイルドなボンドを象徴するワンシーンです。
春の夜長に古い映画でも、いかがでしょうか?
P.S.因みに、こちらサルトリアプロメッサのコンチネンタルスタイルとしては、モダンミラノが存在します。
吉澤